雨の日



「お前なぁ。あそこで火炎球(ファイヤーボール)は無いだろ。俺もろともだったじゃないか。」

呆れた様に、でも苦笑い気味に口にするのは、知らずと長い付き合いになった自称保護者ガウリイ。
昨日の盗賊いじめで、彼もろとも吹っ飛ばしたことがご不満なご様子である。

「だいじょーぶよ♪あんたならあのくらいで死にゃしないって♪」

「お前なぁ。」

茶目っ気たっぷりのあたしに、ガウリイは頬をカリっと掻きながら笑った。

そしてふと、窓の外を見て呟く。

「……雨、止まないな。」

「そだねぇ。」

四角い窓の隙間から、とっぷりと夜に暮れた降りしきる雨の景色を視界の隅でとらえ、あたしも呟いた。

あたし達は、この雨のおかげで足止めをくっていた。

本当なら昨日出発していたはずだった。ならばなぜまだここにいるのか。
原因は、酒場のおばちゃんから近所の洞窟に潜む盗賊たちの話を聞き、あたしが駄々をこねたから。

旅をするにおいて、路銀というものはいくらあっても足りないもので。
ここのところあまり盗賊いじめをしていなかったこともあって、そろそろ補充したいなと思った矢先だったから仕方がない。

運の悪い盗賊たちを退治して、さあ次の町へという矢先に、思いのほか強い雨が降り注いだ。

仕方なく、あたし達はもう一泊、宿屋で滞在することにしたのだった。
そして今は、晩御飯も終えガウリイの部屋で明日向かう街での予定を相談していた。
(というか、そもそもあたしの話をガウリイがただ聞いていただけとも言う。)

「そろそろ夜も遅いし、寝るか。」

ガウリイが、腰掛けていた椅子から立ち上がる。
あたしが部屋を出た後、ドアの鍵を閉めるためだ。
目線でドアを指すガウリイ。

だけどあたしは椅子から立ち上がらなかった。

「……リナ?」

訝しむガウリイの声。

もう夜も遅い。
明日は早く出発しなきゃけないから、本当ならとっとと部屋に帰り休んでおくにこしたことはない。

……でも。

……どうしても、離れがたくて。

もう少し、ここに居たい、と思った。
ガウリイの部屋で、彼の声を聞いて、彼の居る空間に居たい、と思った。

黒い空から地面へと降り落ちる雨の音に、人恋しくなったのかもしれないけれど。

「リナ?どうした?ほら。」

そう言って、差し出されたガウリイの手をじっと見つめる。
あたしの倍以上に大きな手。
立ち上がらない理由を、わかっているのかいないのか、それとも気づかないフリをしているのか、その手は「早く戻れ」といっていた。

仕方なく、その手を掴みぎゅっと力を入れてから立ち上がる。

「なんでもない。」

そう言って、にこりと笑うあたしを見て、ガウリイもふっと笑顔になる。
あたしはそのままくるりと背を向けて、ドアの方を向いた。
これならガウリイに表情を見られることも無い。
……だから。

「もうちょっと一緒に、居たいかなーとか、思っただけよ。」

ほんの少し。出してみた素直な気持ち。

後ろで感じた息を呑む気配に知らないフリをして、あたしは早足でドアへと駆けた。
恥ずかしいから、振り返らずに。

「じゃあねっ。おやすみガウリイっ。」

背中越しにそれだけ告げて、ドアノブに手を伸ばした。
明日の朝にはまた、普段通りに挨拶を交わし、いつもと同じに笑いながら二人で歩いていく。

―――はずだった。

右腕をぐっと後ろに引かれて立ち止まる。
少し強めの力に驚いて、思わず振り返った目の前にあったのは、真剣な目をしたガウリイの顔だった。

青いはずの彼の瞳が、なんだか燃えている様に熱っぽくて。
あたしは囚われたように動けなかった。

「……リナ。」

一言、名前を呼ばれて。
同時にふわりと倒れこむ。

引かれた腕を掴む手が、熱くて。

気がつけば、あたしの身体は、ガウリイの広い胸の中だった。
パタン、と。

後ろでドアが閉まる音がした。



<終>

あとがき


リナの年齢を考えると犯罪以外の何物でも無いんですが。思い返せば、リナとガウリイも結構な歳の差カップルなんですよね。そう思うと、この頃から既に自分は毒されていたのかな…とか恐い考えが過ります。基本的にガウリナはコメディラブが一番似合うと思っているんですが、たまにはこういったシリアス?いやちょっと真面目なガウリイもいいかなと思いました。
裏話。
こちらのお話については、時系列で考えると冥王編の少し後を設定していました。リナが自分の気持ちに何となく気づいた頃ですね。思い切りの良い彼女なので、照れながらも結局は「まあ好きなもんは仕方ない。認めたくないけど。物凄く認めたくないけどっ!」と悶えつつも結局は素直な部分を出してくれるんじゃないかなと思って書きました。アニメNEXTの続編としてTRYが制作されましたが、あの間に色々と二人の間に変化があってくれたらいいのになという私の妄想と願望です。

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