fairy soul



「ぬああ冷たいよ!寒いよ!ゴツゴツしてるよっ!」

ひんやりとした岩肌に腰を下ろし、早速文句を言うあたしに向かって、ガウリイが呆れた顔を向けた。
む、何よその顔は。

「仕方ないだろー?急に土砂降りの雨だし、このまま無理に進んでも濡れ鼠で風邪引くのが落ちだぜ?こうやって、まだ洞窟に入れただけマシってもんだろ。」

「それにしたって寒いのよっ!雨でそこらへんの枯れ木とかも使えないから火炎球で暖も取れないしっ。」

そうなのだ。
あたし達は次の街へと向かう道中、急な雨に見舞われ、近くにあったこの洞窟へと雨宿りしに来たのである。
外はかなりの土砂降りだが、自然洞の割りに奥深いこの洞窟には入ってこない。洪水にでもなれば話は別だろうけど、今しばらくは大丈夫だろう。
にしても、地面は岩だからゴツゴツしてて座り心地は悪いわ、空気は雨のおかげで温度が下がって寒いわで、ただでさえ洞窟内なんてひんやりしてるのに、寒いのが苦手なあたしにとっては大問題だった。

「服は風の魔法で乾かせるけど、温度ばっかはどうにもなんないのよねー…。っくしっ!!つあー……外出なくても風邪引きそうよ。」

「そうなのか。うーん。他に燃やせそうな物も無いしなぁ。そうだ、岩肌に魔法当てて、あっためるってのはどうだ?」

「本当脳みそつるつるよねアンタは。んなことしたら、暖とるどころか洞窟の天井がたちまち崩れて生き埋めでしょうが。」

「あ、そっか。」

ぽりぽりと、頬を掻きつつ納得したガウリイをジト目で睨む。やつ当たりとも言うけれど、あたしは暑いのと寒いのは我慢ならん。
なのに耐えなきゃいけないなんて、イライラするにもほどがある。

「あ」

ひざ小僧をさすさす擦りながらどうにか体をあっためようとしているあたしの横で、ガウリイがすっとぼけた声を出した。

「あによ。」

イラつきながらもとりあえず返事を返すあたしをおかまい無しに、ガウリイはふっと微笑みながら洞窟の奥を指差した。
なんだ?と目を凝らすと、洞窟の奥の暗闇の中に、淡く小さな光がいくつも浮かんでいる。

「ん……?何かしらね。アレ。」

「さあな。殺気は感じないから、モンスターの類じゃないだろ。じっとしてても体温下がるし、ちょっと見に行かないか?」

そのガウリイの提案に、あたしはこくりと頷いて、冷たい岩の地面から立ち上がった。

少しは動いたほうが、寒さも楽になるだろう。

ゴツゴツと隆起した洞窟内の道を、光に向かって歩く。

自然洞だからか、道といってもただの空洞だから、時々あたしじゃ跨げないくらいの岩がどんっと出ていたりする。
それを、ガウリイに引っ張ってもらったりして乗り越えながら、あたし達は洞窟のかなり奥へと進んだ。

恐らく最奥だろうそこは、優しい光に溢れていた。

「ヒカリゴケ……?」

呟きながら辺りを見渡すと、淡い光がふわりふわりと、まるで風に舞うようにいくつも舞い上がった。

「あ……。」

「これって……。」

あたしと、ガウリイの呟きが重なった。

それはヒカリゴケなんかじゃなく、洞窟内一面を埋め尽くすほどの、フェアリーソウルの光だった。
高い天井にちらばった光が、まるで満点の星空の様に見える。

「すごいわね。」と、見上げながらポツリと口にすると、ガウリイが目の前に飛んできた一つの光に手を伸ばした。
けれどその光は、音も立てずにすうっと彼の手をすり抜ける。

「やっぱり触れないんだな。「妖精の魂」って、本当だと思うか?」

言いながら、ガウリイがあたしに顔を向けた。その表情は、どこか嬉しそうで。

「さあね。魔導師協会でもわからないらしいけど。一説じゃあ、この光は浄化されて散っていく生き物達の魂だって言われてるらしいわ。」

「生き物か……それって人間もだよな?」

「まあ、たぶんね。」

「お前さんと俺も、最後はこんな綺麗な光になるのかね。まぁ、悪くないな。」

言って、再び淡い光へと目を映したけれど、柔らかい光に照らされたその横顔に、あたしはなぜかドキリとした。

「何よ。それ。」

少しだけ波打つ気持ちをごまかしながら、呆れたように返事を返した。
なんだか、ガウリイの雰囲気がちょっとだけ違うように思えるのは気のせいだろうか。

「ほら、あっちの光二つ。ずっと一緒に飛んでる。逝ってからもあんな感じなら、悪くないなって思ってな。」

逝ってからもなんて縁起悪いわね、そう口にするはずの言葉が、目に入った二つの寄り添う光に止められた。

淡く柔らかく光を放ちながら、添うように揺らめく二つの光は、ゆっくりと天井の光たちの中へ溶けていく。
数えきれないほどの多くの光が、その二つをまるで歓迎するかのように、ふわりと包み込んだ。

光の海の中でも、あの二つの光はきっとずっと同じように寄り添っているのだろう。

いつか、『その時』が来たとしても。
光となって、また再び、居られるなら。

「そうね……。悪く、ないかもね。」

言ったあたしの手は、ガウリイのおっきくてあったかい掌に、いつの間にか包まれていた――。



<終>

あとがき


スレイヤーズ二次で書いたお話の中では、こちらのお話が一番気に入っています。というのも、恐らくリアルタイムでアニメを見ていた私には、書けなかったお話だと思うからです。リナとガウリイの「死」なんて想像できなかったし、そんな生の理さえ吹き飛ばしてしまうようなリナ=インバースというキャラクター性に、強烈に惹かれていました。あと子供時代って、やっぱり夢を見ているのでヒーローには死んで欲しくないし負けて欲しくない。
書けなかったというより、書きたくなかったが正解かもしれません。しかし成長した今なら、こうやって「生の先」を語る二人もありだなぁと思ってしまうのです。やはり、歳ですね……(笑)
裏話。
スレイヤーズの劇場版第一弾で、ガウリイのご先祖様のお話がありましたね。こちらはガウリイ外伝とはまた違った風味のお話しでしたが、ラウリイさんのキャラ性と言い、少年時代の外見といい、ガウリナファンとしては秀逸とも言えるストーリーでした。その時に出てきたフェアリーソウルについて、どうしてもガウリナカップルで語らせて見たかったのでこちらのお話を書いたのです。あの劇場版から考えると、ガウリイは人間とエルフのハーフという事になりますが、それについても元々伏線が貼られていたので、この伏線回収方法には拍手するばかりでした。やっぱり神坂先生は凄いですね…。

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