旅の理由



爽やかな春風の吹く街道で、あたし達はいつもと変わらずえっちらおっちら歩いて移動していた。
日差しは高く、青く茂る木々の中をまっすぐ伸びた大通りは、ぽかぽかお日様のおかげかいつもよりちょっとばかし明るく見える。

「ねえ、ガウリイ。」

あたしは振り向かないまま、後ろをついてきているであろう自称保護者に声をかけた。
見なくてもわかる、大きな長身を揺らし、女でも腹が立つくらい綺麗な金髪をなびかせて、のほほんとしたいつもの表情で歩いている彼。

「どうした?リナ。」

やっぱりのほほん、とした口調で返事が返ってきた。
いつもの、あたし達のやり取り。

「ガウリイはさ、何であたしと旅をしてるの?」

「はえ?なんだよ。急に。」

ぴたり、と足を止めたあたしに合わせて、後ろをついてきていたガウリイの足も止まった。
その口調に含まれているのは、少しの驚き。

「ん。なんかね、ちょっと聞きたくなっちゃって。」

そう言いながら、にっこり笑顔であたしはガウリイの方を振り向いた。
春の空みたいに青い碧眼が、ほんのちょっぴり困ったような色をして、あたしを見ている。

ガウリイと旅を始めてからどれくらいになるだろう。
色んな事があった。
並みの人間じゃ到底太刀打ちできないようなことばかりが、いっぱい。

光の剣を失って、ガウリイの為の新しい剣を探す旅に出たあたし達。
名目は、それだった。

でも、昨日泊まった町の酒場で魔力剣の情報収集をしていた時の事。
話を聞いていたおっちゃんが、ガウリイに言った。

「あんちゃん、そんなに強い剣がどうして入用なんだ?そこそこの魔力剣なら、マジックショップにだってあるだろうに。」

そう言ったおっちゃんに大してガウリイの答えはこうだった。

「んー…そうだなぁ。普通の傭兵なら、それでも別に良いんだけどなぁ。」

いつもと同じ、なんにも考えてなさそうな笑顔で、そう答えるガウリイの表情が、あたしの中に疑問を呼んだ。

「普通の傭兵」だったガウリイ。例え脳みそスライムだということを踏まえても、超一級の剣の使い手の彼なら、どこへ行っても重宝されるだろうことはわかりきっている。
だけど、そうじゃいられない「理由」は・・・。
やっぱり、あたしと居るからなんだと思う。

しょっちゅう厄介事に巻き込まれるし、魔族だなんだと物騒な連中に出くわすことも多い。
あたしといなければ、そんな事に巻き込まれなくて済むのは当然の事実。
なのに、どうして彼はあたしと一緒に旅を続けるんだろう?

一緒に居るのが当たり前になった。
隣にいないと横がスースーするのも知ってる。
ガウリイがフィブリゾに攫われたあの時、流した涙で、あたしは自分の気持ちに気づいた。
なら、ガウリイは?

この脳みそところてん男は、一体どう思ってるんだろう。
また、保護者だからとかわされるんだろうか。

「ガウリイだったらさ、光の剣なくても傭兵としてやってけるじゃん。あたしといるとさ、ほら厄介事が向こうからやってくるでしょ。」

「まぁ、そうだわな。」

「だからさ、めんどうになんないのかなーって思って。昨日酒場のおっちゃんにもさ、普通の傭兵だったら別に魔力剣なんていらないって言ってたじゃん。なら、普通の傭兵になろうとは思わないの?」

一気にしゃべったせいか、口がカラカラした。

ガウリイはじっとあたしを見て話を聞いていた。たぶん、少ない思考能力をフル活用させているんだろう。
あたしが何を聞きたいのか、何を言ってほしいのか。気づいてほしい気もするけど、気づいてほしくない気もする。

彼は珍しく、ふむ、と難しそうな顔をして頷くと、口を開いた。

「だってなぁ。お前みたいなの野放しにゃできないしな。それに、俺はお前の保護者だし。」

にっこり能天気に笑って、彼はいつも人に聞かれた時と同じ答えを口にする。

……やっぱり。
予想通りの答えが返ってきたことに、あたしはほっとしたような、残念なような気持ちになった。

「ふーん……そんだけ?」

「そんだけって?」

「……やっぱいーや。」

「わけわかんねーやつ。」

もうっ。
ぷいっと、あたしはガウリイから視線を外し、ひたすら続く街道の奥へと目を向けた。
やっぱりクラゲのガウリイには、聞いても女の子が喜ぶような答えが返ってくるわけないか。

「……ま、理由はそれだけじゃないけどな。」

……へ?
ぼそっと、後ろから聞こえたガウリイの声に慌てて振り向いた。
それと同時に、ガウリイの大きな手があたしの頭にのせられる。

「……理由なんて、いらないだろ。」

そう言いながら、彼はあたしの頭をがしがしと、いつもするのと同じように撫でた。

「そっか……そだね。」

いつものあたしなら、子ども扱いするなって喚いてた筈だけど、なんだかそんな気にならなくて。
ガウリイの、頭をがしがし撫でるおっきな手がなんだか心地良くて。

道行く街道の真ん中で、あたしはどうしてか、あったかい気持ちでそれを受け入れていた。

ただ、隣に居て。背中を預けられる。
理由なんていらない。

まだ、今は――――。



<終>

あとがき


ガウリイのあの、「判ってない振りして判ってるよ」な感じがたまらなく好きです。ガウリイのおかげで、普段まったり実は曲者(笑)な男子に目覚めた女子は多い筈。スレイヤーズという作品に出会った当時はゼロスが一番大好きだったんですが、大人になるにつれてずっと傍にいてくれる人の有難さというものに気づいてからは、完全にガウリイ一択になりました。旅に寄り添い人生に寄り添い、そんな関係性に憧れます。
裏話。
こちらのお話の中でも語られていますが、ガウリイにとっては本当にリナの傍に居るのに理由は必要無いんだと思います。一緒に居たいからというのも勿論あるのだろうけど、もう既にそれが当たり前なんですよね。当たり前の様に彼の人生の中にリナがいる様な。だけどリナも一応女の子(笑)女子はやっぱり言葉を求めてしまうので、そういった部分のリナを書いてみたくてこちらの作品を作りました。…でもやっぱり、最終的にはガウリイに丸め込まれちゃうんだな。

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