盗賊いびりはほどほどに



わっちゃー…。

口に出さずに、心の中で呟いた。
いや、口に出さないのではなく、「出せない」のだ。

「へっへっへ、ねーちゃんよぉ。その格好は魔導士だな?一人で乗り込んでくるなんて、良い度胸じゃねーか。」

下卑た笑い声が耳につく。どうしてこう盗賊って、品のないのばっかりなんだろーなー。
でもって台詞にもうちょい工夫とかできないもんかなー。
って、上品な盗賊ってのがいたなら、お目にかかりたいもんだけど。

あたしは今、ざっと20人ほどの盗賊達に囲まれていた。まさにふん縛られた格好で。

事の始まりは、深夜、眠るガウリイに更に眠りの呪文をかけて、邪魔されない様に細工してから趣味の盗賊いびりへと繰り出した事だった。

最近のガウリイと言えば、あたしが盗賊いびりに行くのをことごとく邪魔してくれるから、めっきりやりにくくて仕方なかったのだ。
長い道中、依頼が少なければ路銀は減る一方で。どこかで調達しなければいけないというのに。
てっとり早い路銀調達と、あたしのストレス解消もかねた盗賊いびりに、夜中一人でいそいそ出かけるあたしを、ガウリイが何度妨害した事か。

盗賊いびりに行くなら、自分も一緒に行くと言い張られ、それじゃあ思う存分ストレス発散できないじゃないかと言うあたしに、ガウリイは自分を連れて行くのが嫌なら行くなと言う。

それが今夜は上手くやり過ごせたというのに、ちょこっとお宝に目を奪われている内に、背後からなぜか投網をかけられ、こうして捕まってしまったのである。
油断したとも言う……かもしんない。

というか、なぜに盗賊が投網なんぞ。海までは遥か遠い山々に挟まれた、村の傍だというのに。
ここいらでは網なんて、せいぜい獣を狩る為の小さな物しか普及してないはず。

「へへ、俺はなぁ、昔ここより遥か遠くの海沿いの村で漁師をしてたんだよ。コイツはその名残ってこった。」

「ふむむぅ、ふむっふっ!!!!」

名残で投網なんぞ持ってるんじゃないっ!と文句を言ったけれど、猿轡を噛まされているので言葉にはならない。
ちっくしょー。呪文さえ使えればこんな奴等。
ご丁寧に手足まで縛ってくれちゃって。さて。
どうしようか。ガウリイは眠りの呪文で寝こけてる筈だから助けは期待できないし……。

「俺らのお宝横取りしようとしてくれたんだ。それなりの覚悟はできてんだろうなぁ?」

はいはい。お決まりの台詞ね。こういうのって、もう少しアレンジ利かせようとか思わないのかしら。
ま、そこまで頭回るようには見えないけど。あーだから盗賊とかやってんのよね。

心で心底馬鹿にしつつ、どうやってこの場を乗り切るかを考える。
手足は縛られている、口は塞がれて呪文は使えない、結構八方塞がりだ。

「ねーちゃんはねーちゃんだが、ちっとばかし幼いな。胸元も寂しいし。お頭はもっと色っぽいねーちゃんが好みなんだ。」

「ふむっ!?ふむむむむっ!!!むーっ!」

胸元寂しいとは何だこらーーーっ!アンタなんて髪の毛寂しいくせにっ!

ニタニタしながら人を見ていると思ったら、そんなとこ見てたんかいっ!
聞き捨てならない言葉に腸煮えくり返るけれど、反撃する術が今のあたしにはない。

ジタバタもがくあたしを観察しながら、一人の男が言った。

「ザイデルならどうだ?確かロリコン趣味だったろう。丁度おあつらえ向きなんじゃないか?」

男の言葉に、他の男達がざわめいた。中には「そうだアイツがいい」なんて言ってる奴もいる。
こっちは全然良くないわっ!叫びたいけれど、悲しいかな猿轡をかまされた現状ではふむふむ言うのが精一杯だ。

「俺はこれよりもう少し育ってないのが好みなんだがなぁ。できればこんくらいの。」

と恐らくザイデルと呼ばれた本人であろう、周りの男と同じく盗賊お決まりの装備をつけた、少々若いにーちゃんが立ち上がって手振りで説明する。
おい。今現したその身長だと完璧子供なんだけど。
正真正銘のロリコンかっ!

ってか何気に馬鹿にされてる腹立つ!

「まあいいじゃねえか、お子様には変わりないんだしよ。ちっと痛い目見せてやってくれや。」

言った男の声に応じ、ザイデルという男があたしの方へにじり寄る。

うわーーーっ!馬鹿っ!こっち来んなド変態っ!

蓑虫の如くうごうごと後ずさるあたしに、その変態ザイラスの手が伸びる。
その指先が届く寸前だった。

「ぐあああああああああああああああっ!!!!」

男の悲鳴が辺りに木霊した。
その場が凍りつく。

あたしに手を伸ばそうとしたザイデルから、大量の血液が噴出していた。

その後ろ――ザイデルの背後に、もう一人、大きな一振りの剣を手にした男の姿。

「ふむむぅっ!!!」

ガウリイ!と叫んだあたしの声はやっぱり言葉にはならなかった。けれど、赤に染まった剣を手にした金髪の剣士があたしを見下ろす。

あっちゃー……あれはめちゃくちゃ怒ってるな。

たらり、と汗が頬を伝ったけれど、危機一髪の状況に安堵した。
しかし、ガウリイにはちゃんと眠りの呪文をかけておいたのに、どうしてここに来られたんだろう。
まあ、助かったからいいけど。

未だ凍りついた盗賊達を尻目に、ガウリイは剣の一振りであたしにかけられた縄と猿轡を解い―――てくれなかった。

……へ?
な、なんで?

驚くあたしを無視して、我に返った盗賊達がガウリイに切りかかる。
けれどガウリイはあたしを背に守りながら、襲い来る敵を的確に倒していった。

それは時間にすればものの数分で。
まあ、確かにあんな盗賊20人程度、彼一人で大丈夫っちゃ大丈夫なんだけど。それにしたって、どうしてあたしはこのままなんだ?

頭にいくつも疑問符を浮かべながら、あたしはガウリイが最後の一人を倒し、剣を鞘に収める姿を見ていた。

「帰るぞ。」

ガウリイは一言いって、ひょいとあたしを抱きかかえた。

ってこらっ!何ドサクサに紛れてお姫様抱っこなんて…っと猿轡越しに文句を言おうとしたあたしの口は、目に入ったガウリイの表情に止められる。

うえ……めちゃくちゃ怒ってるどころでは……ない?


ドサッ。

乱暴に、宿屋のベッドに放り投げられた。
しかもここは、あたしの部屋ではなく、ガウリイの部屋のベッドだ。

「フムフムっ!!」

何すんのよ、と文句を言ったけど、ガウリイはいつもと違う、無表情であたしを見下ろしている。
ちょっぴし恐い気がするのは、気のせいじゃない気がする。

「リナ、俺は言ったぞ。一人で盗賊いびりに行くなってな。」

ギシ、とベッドが軋む。あたしの上に覆いかぶさったガウリイの重みで、マットが沈んだ。

へ?え?え?ええ?

状況が理解できなくて、パニくるあたしの身体を、ガウリイが片手でひょいとうつ伏せにした。
あたしの顔がシーツに埋もれる。息がしにくくて苦しい。ガウリイの長い金髪が、あたしの後ろから垂れているのが、視界の端に映った。
背中に、ガウリイの手が静かに触れた。

「なあ……お前さん、あのままどうなってたかわかってるか?俺が行かなかったら、何されてたか、わかってるか?」

ガウリイが口にした言葉に、身体が固まる。

何をされていたか、どうなっていたか。わからないわけでは無い。知らないわけではない。
だから、ガウリイはあたしが盗賊いびりにコソコソ出かけるのを邪魔していたのだ。

そういう事だ。
ある程度の年齢を経た女ならば、捕らえられ、抵抗できなければ行きつく最後。
強力な魔法が使えようが、剣技がそこそこできようが、その腕その言葉が使えなければ意味は無い。
「そう」なってしまった場合の事を案じて、ガウリイはあたしの邪魔をしていたのだ。
一人で盗賊いびりに行かないように。最悪の事態にならないように。
あたしだってそれに全く気がつかなかったわけじゃない。一人旅していた頃だってあるのだから。
でも、あたしなら大丈夫だという過信が、あった事は事実で。そして今日、油断してまんまとその通りになるところだった。
ガウリイが来なければ、恐らく。

わかっていても、認めるのが悔しくて、あたしは頭を左右に振った。
途端、背中にあった彼の掌が、ぐっと握り締められた。

「……なら、教えておく。」

あたしの否定を、どう受け取ったのか、ガウリイが静かに呟いて、そして事もあろうに、あたしの服に手をかけ、背中側をずり下ろした。

「っ!?」

驚いて身を捩るあたしを、背中から覆い被さるガウリイが片手で押さえつけた。
露出した肌に空気が触れる。背中に感じるガウリイの視線に、背筋がゾクリと震えた。
そして。

「ふっ…。」

肌に感じた感触に思わず声が漏れた。
滑る様になぞる湿った感触。いくつもつけられるそれが、ガウリイの口付けなのだと理解するのに時間はかからなかった。
吐息と、口付けの両方を、背中で感じた。

ぎゅっと、身体に力を込めた。豹変したガウリイの纏う空気に、恐怖すら感じる。

こういうガウリイは、あたしは知らない。
この人は、「男の人」だ。
ガウリイは、「男の人」だ。

そんな事に、今更気付かされる。

鼓動が早まる。ドキドキが、身体を駆け巡って、中心に熱さが込み上げる。それが、恐い。

目にじんわりと何かが浮かんで、それをぐっと堪えた時、背中を滑っていた口付けが止んだ。
そして、そのまま後ろから強く抱きしめられた。
背中に感じる、ガウリイの体温が暖かい。

「……頼むから、あんまり無茶しないでくれ。」

耳元に告げられた懇願のような言葉に、あたしはただ、こくりと頷いた―――。



<終>

あとがき


初ダークガウリイ参上です。前々からずーーーっと書いてみたかったんですが、一般常識として「普段穏やかな人ほど、怒ると恐い」というのはガウリイにも当てはまる…というか、そうだろうなという予想でお話を組み立てました。あくまでもリナより大人なガウリイは、彼女が理解していると思っている最後よりも、もっと惨い結末を実際の体験として知っているのかもしれません。傭兵をしていたって事は、結構修羅場もくぐっているでしょうし。危険だと本当の意味で判らせたいながらも、自分も性別としては男性なので、気づかれたくない思いもあって口にするのは憚られる…そんな葛藤があるのかなぁ…(あったらいいな!)な妄想を爆発させてみました(笑)
裏話。
「ガウリイは腕利きの傭兵なんだからスリーピング程度じゃ眠らない」という私の勝手な仮定を含んだお話第二弾です。私の中のガウリイは、これまで何度もリナの盗賊いびりにこっそりついて行って、こっそり護衛してあげてた…という涙ぐましい努力もしている頑張り屋さんです。しかし何度言っても聞き入れてくれないリナに、ちょっとした鬱憤も貯めており、目の前で彼女が捕らえられているのを見てそれが爆発した…というのが今回のお話。ダークというかヤンデレくさいですが、これが私の中のガウリイだったりします。(お願い引かないで)

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