ゼロスの陰謀 〜ちっちゃいって事は便利だねっ〜



それは、突然だった。

「なありな。 なんかふくがみんなおっきいんだが、いったいどうなってるんだ?」

………。

……………。

あたしは目の前(よりちょっと下)に居る「それ」を見て、まさに凍りついたかのごとく絶句していた。
無論、顔はひきつり現在目前に存在しているものを脳が拒否している。

「りな?なんかおまえきゅうにでっかくなったか?」

そこには、あたしの自称保護者、であるはずのガウリイが、世間の常識的には保護者が必要とされるである年齢――つまりは子供の姿で、立っていた。

「っななんじゃこりゃあああああああああああああああっ!!!!」

理解不明意味不明の出来事に、あたしは朝から頭を抱えつつ、大絶叫をかましたのだった。


「……で、これは一体どーいうことよ?ガウリイ?てゆかまさか、頭ん中まで子供になってんじゃないでしょーねー・・・?」

と、ジト目を向けた視線の先にはガウリイ―――もとい、本来なら金髪長身碧眼の、見た目は美形だが中身はクラゲなあたしの保護者。
ただ違うのは、今のガウリイは美形というより可愛い美少年、長身は今やあたしより頭一個小さいくらい、年の頃なら12・3歳くらいの子供になっているということ。

「んー。なんかな、あさおきたらこうなってた。きおくは、あるぞ。りなのこともおぼえてたし。」

子供らしい細っこい手で腕組をし、うーんとした後少年ガウリイはたはは、と笑った。

いつもと同じはずのその仕草に、なんだかあたしの顔が熱くなる。
ちょっとかわゆい気がするのは気のせいじゃないかもしんない。
・・・・べっ別に変な意味じゃなくてっ!

おかしい、いつもなら「笑ってる場合かっ!」って張り倒せるのに。

にしても、先ほどからの話し方からすると、本当に中身はそのまま大人のガウリイのようだ。

「朝起きたらって、アンタね・・・。何かの気配とか、そんなの全然なかったの?」

あたしは溜息つきつつ、目の前できょとんとしているガウリイに言い放つ。

とは言っても、ほぼ超人的なガウリイに気づかれず、彼に術をかけたりできるヤツなんて、世界広しと言えどそうはいないはず。
となると、何か盛られたとか・・・・。
昨日の宿屋の食事では、変なところは無かったと思うけど。

「うんにゃ、でもなにかっていったら、きのうふろからかえったら、てーぶるのうえにくっきーがおいてあってな。やどやからのさーびすですってかいてた。」

にぱあっと、やたらめったら可愛い笑顔を振りまいて、少年ガウリイはもの凄く嬉しそうに言った。

って!ちょっとまていっ!

「それじゃあああああああああああああああっ!!!このアホくらげええええええっ!!!食べたんかいっ!あんたはっ!?」

「うん。たべた。だってさーびすってかいてあったぞ。」

だ、だからって・・・・・・。
知らないうちに部屋に置いてあった食べ物食うかフツウ……。

アンタ仮にも雇われ傭兵だったでしょうよ……。
用心、とか何か盛られてるかもとか、思わなかったんか……ガウリイに疑えって言う事自体が無駄か。

「だからって、置いてる物そうホイホイ食べるんじゃないわよっ!絶対それよそれっ!まだ子供になるくらいで良かったくらいよっ!毒でも盛られてたらどうすんのよアンタはっ!」

「いやあうまそうだったからつい。」

「つい、じゃ、なーいっ!!!!!!とーにーかーくっ!!こんなくだんないことするのはアイツに決まってるわよっ!ちょっと出てきなさいよゼロス!あんたの仕業ってことはわかってんのよっ!」

と、あたしは宙に向かって叫ぶ。
そう。あのおかっぱ魔族、ゼロスに向かって。

「いやあリナさん。さすがですね。わかっちゃいましたか♪」

いけしゃあしゃあとそう言いながら虚空からふわりと姿を現したのは、他でもない、おかっぱ獣神官セロス。
くっそう腹の立つ笑顔浮かべおって。

「わかっちゃいましたか♪じゃないわよっ!何アホらしいことやってんのよアンタはっ!このカンだけはすこぶる良いガウリイに気づかれずにこんな事できるヤツなんて、アンタくらいしかいないでしょうよっ!さっさと元に戻しなさいよっ!」

「りな……だけってなんだだけって……。」

なんだか背後から少年ガウリイの文句が聞こえた気がしたけど、あたしは無視した。

「ともかくっ!何わけわかんないことやってんのよっ。とっとと元に戻しなさいっ!」

びしいっと、一差指突きつけた先の糸目魔族ゼロスは、そんなあたしの剣幕をよそに、にこにこと平和そうな笑みを浮かべた。
そして。

「それはできませんねぇ。」

とのたまった。

……この野郎。

「あ、あんたねぇ……ふざけるのも大概にしないとこの場で竜波斬(ドラグ・スレイブ)かますわよ。」

「まあまあ、そう熱くならずに。心配せずとも、ソレはある一定の条件を満たせば、解除されるようになってますから。ご安心を。それまで、存分に、楽しんじゃってください♪では、僕はこれで。」

「ちょっ!待ちなさいよゼロスっ!」

そう言って、糸目のおかっぱ魔族はまた虚空へと姿を消した。

一体、これのどこをどう楽しめっていうのよっ!?

「ふざけんじゃないわよゼロスっ!!逃げるな生ゴミ魔族―――っ!!!!!」

あたしの絶叫は、何もない空中へと掻き消えたのだった。



◆◇◆


「シングル二つ、明日の朝まで。」

言い放ったあたしに、宿屋のおばちゃんは妙に怪訝な顔をした。

「ちょいとお嬢ちゃん、あんた、こんな子供を一人の部屋で寝かせる気かい?」

おばちゃんはそう言って、一見お子様にしか見えないガウリイを目で指した。
うっわー……やっぱし。
あたしは内心、溜め息をついた。想像がついていたのだ。こう言われるであろう事は。

「あんたの弟だろ?連れ子にしては大きいし、自分の宿屋を悪く言うわけじゃないけどさ、最近物騒なんだし意地悪してないで、一緒の部屋にすりゃいいじゃないか。その方が安く済むんだし。」

うっ……っていうか、連れ子って何よ連れ子って。このあたしのどこ見て言ってんのよこのおばちゃんはっ。
一応、今のガウリイは見た目は12歳くらいの子供に見える。でも実際は長身長髪の背のでかいにーちゃんである。頭の中身は半熟卵の黄身ぐらいなレベルなのは今の姿でも大人の姿でも変わらないが。

しかし、安く済む、というのは確かに魅力的ではある……でも、中身はまんまあのガウリイだしなぁ。
今までだってずっと別々に部屋を取ってきた。だからこそ、照れくさいというのも正直ある。
そんなことを考えながら、少し下に目を向けると、少年ガウリイはきょとん、とした顔でおばちゃんを見ていた。
コイツ、話きーてたのかしら……。

「そうね……安く済むし、そうするわ……。」

たぶん、このおばちゃんに何を言っても無駄だろう。
そう悟ったあたしは、仕方なく、ツインの部屋を取ったのだった。


「おおーーーーっ!リナ!机の上にお菓子が置いてあるぞっ!」

部屋に入ってすぐ、テーブルの上に置かれているバスケットに駆け寄り手をのばすガウリイ。
子供がお菓子に向かって走っていく。普通なら微笑ましい光景かもしれないが。

しかし。

すっぱああああああああっんっ!!!!!!!!!

「だあっ!!!」

あたしの必殺スリッパが炸裂した。
懐にスリッパ常備は乙女のたしなみである。

「あにするんだよっ!リナ!」

半目でこちらを睨むガウリイに、あたしは突っ込んだスリッパを手に握りしめたまま叫んだ。

「やかましいっ!アンタには学習能力というもんが無いのかっ!?昨日、同じように机に置いてたぜロスの毒入りクッキー食べて、そんな姿にされちゃったばっかでしょーがアンタはっ!!」

ほんとに。まだ高野豆腐の方が形状記憶とかしそうじゃなかろうか・・・。
心底げんなりしながら言い切ると、目の前のガウリイはぽんっと手を打ち満面の笑顔。

「おおっ!そーいうこともあったなぁ。」

と言い放った。

「和やかに言うなああああああああっっっ!!!!!」

精一杯のあたしの叫びを、ガウリイはこれまた普段と変わらない顔で笑っていた。

ほんとに・・・・今の状況コイツは判ってるんだろうか・・・・。

脱力し、テーブルに二つあるうちの一つの椅子に腰掛ける。

「でももったいないなぁ……。」

目を少しうるうるさせて、しょんぼりする少年ガウリイになんだか妙な罪悪感を覚えたけれど、そこは見なかったことにした。

それにしても。

ある一定の条件を満たせば解除できる、とゼロスは言っていた。

その条件とは何か?
ソレが状況に関するものなのか、時間に関するものなのかは判らない。
たとえ面白半分のお遊びだとしても、あのゼロスがその答えを教えるはずが無いのはわかりきっている。

だから。

もし万が一時間設定だった場合、5年経てば元に戻れるのかもしれないし、もしかしたら10年、なんて設定されているかもしれない。
魔族の事だ、彼らにとっては10年であれ100年であれ、瞬きするのと変わらないだろう。
肉体が少年のままだとしても、本質はわからない。元に戻った瞬間に老いて死ぬ、なんてこともありうるかもしれないのだ。

そんなあやふやな物を、ただ待っているわけにはいかない。
ガウリイの命を、時間を、弄ぶなんて。そんな真似、させない。

だから、あたしは探すことにした。

まずはセイルーンへ。あのお転婆熱血娘アメリアなら、王室付の魔法医も紹介してもらえるだろう。

……まあ、あのゼロスの事だから、その条件っていうのが意外と簡単な事だったりする可能性も、無くはないのよね・・・。

そんな事を考えていると、お菓子を諦めて部屋をあちこち見て回っていたガウリイが、あたしの正面の席――テーブルを挟んで向かい側に、座った。

「なあ、リナ。」

「何よ?」

あたしがこ難しいことを考えているのを知ってか知らずか、ガウリイはニコニコ笑顔。
柔らかな蒼の瞳が優しい光を湛えている。

ああ、いつもと同じ、ガウリイだわ。姿形が変わっても、あたしに向けるこの眼は同じ。

「俺と別れても、いいぞ?」

………へ?

一瞬、何のことかと耳を疑った。
恋人同士じゃああるまいし、別れるって何?
と思ったけど、それは「旅の連れ」としての関係を解消することなのだと頭が理解する。

「なっ!?何いってんのよアンタはっ!?今の状況わかってんのっ!!??」

あたしの、焦りと驚きと、少しのショックと、色んなものが混じった声が、部屋に響いた―――――。


◆◇◆


『なあリナ、俺と別れても、いいぞ?』

ガウリイの放った一言に、あたしの思考が一瞬止まり、復活すると同時に大きく叫ぶ。

「な、何言ってんのよアンタはっ!?今の状況わかってんの!?」

叫ぶあたしに、やたら優しい光を瞳に湛えたままのガウリイがにこりと微笑む。
その姿に、ふっと『いつもの彼』が重なって―――小さな子供になっている筈なのに、大きくて安心できる、あたしの相棒である彼の姿が見えた。

「わかってるさ。この姿じゃ、お前さんの足手まといになるってくらいはな。」

「そん……っ。」

「これじゃあ、保護者、なんて言えないな。」

そんな事ない、と口にしたかったのに、少しだけ悲しそうな顔をしたガウリイに言葉を遮られ、あたしは言葉に詰まった。
保護者なんて言えない。そう言ったガウリイが一瞬見せた表情が、酷く痛く心に響く。
何言ってんの。何言ってんのよこのクラゲ頭・・・・っ!

子供の姿になって、足手まといになるから?

保護者じゃくなってしまうから、相棒(パートナー)を解消しようって?

そんなの。

そんなの……っ。

「本当にアンタはクラゲね!いい?今のガウリイは子供なの!保護対象ザ子供なの!よって、この場合はあたしが保護者なの!わかる?!そもそも、普段だってアンタの面倒見てるのはあたしなんだからね!勘違いしないでよね!」

「リナ……。」

少しだけ軋んだ心を誤魔化すように、強気な口調で言い切って、あたしはガウリイににっと笑いかけた。
そんなあたしを見てガウリイが小さく目を見張り、再び明るい蒼の光を見せる。
コイツに、暗い顔は似合わない。

ガウリイがあたしと出会って起こった様々な事。
たぶん、あたしと出会わなければ遭遇しなかったであろう出来事。

今回も、恐らく。

だからこそ、あたしが何とかしなきゃいけない。
保護者だと言い張り、あたしが背中を預ける相棒を、いつもの彼に戻すために。

「馬鹿な事言ってる暇があったら、今度から妙なモンには手を出さないこと!これからセイルーンに行ってアメリアに会うのよ?ゼロスにこんな事されたーなんて話をしたら、あの熱血正義娘、生ゴミ魔族を抹殺するだの騒ぎかねないわ。今から体力温存しておかなきゃ!もたないわよ!」

「……ああ。そうだな。アメリア、話聞いたら何するかわからないなあ。」


元の姿より短くなった金の髪を揺らしながら、ガウリイが軽快に笑う。あどけないはずの表情は、見慣れた能天気な保護者の顔を取り戻していた。

それを見て、あたしもようやく安堵する。旅の仲間を解消する、その話は思っていたより大きな衝撃をあたしに与えた。
……まさか、ここまでとは思えなかったほど。

相棒解消の危機を乗り越えた安心と、それとは別に湧き上がる感情。もちろん怒りである。
生ゴミおかっぱ糸目魔族、ゼロスにである。

……こんなふざけた事をしてくれて、必ず後悔させてやるんだから!

目の前でようやく普段の笑顔を取り戻したガウリイを前に、あたしはゼロスに復讐する事を固く誓っていたのだった。



<続く>

あとがき


不定期更新作品です。書き上がり次第こちらのページに随時追加していく予定です。(相変わらず亀ですが。)
裏話については完結出来次第こちらに掲載します。

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